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日立財団では、女子中高生の理系進路選択を応援することを目的として、内閣府の「夏のリコチャレ」に賛同し、毎年夏休みにイベントを開催しています。
今年は、7月27日(土)、京都府の同志社大学京田辺キャンパスで、女子中高生を対象としたワークショップ「生き物から学ぶ〜コウモリの声“超音波”を分析して音の物理を学ぼう!」を開催し、中学1年生〜高校2年生の皆さんにご参加いただきました。

飛龍先生のコウモリのお話
飛龍先生のコウモリのお話

講師はパイオニアトークvol.4のゲスト、同志社大学生命医科学部教授の飛龍志津子先生と大学院生の皆さんです。飛龍先生の研究室は、コウモリを飼育して研究を行っている日本で唯一の研究室で、ここでは生物学的な研究から、生き物が持つ能力を社会に活かすための工学的な研究まで、幅広い分野で日々研究が行われています。
今回のワークショップでは、先輩からの声を聞くお菓子タイム(休憩)をはさんで「実際のコウモリを使った飛行実験」「コウモリの能力を真似たロボットのデモ走行」のふたつを体験しました。

実験1:コウモリの飛行実験&超音波を計測してみよう!

毎年ハロウィンの頃になるといろいろなお店でイラストや人形を目にする「コウモリ」ですが、実際の姿を見たことがある人は少ないのではないでしょうか?
この実験では、研究室で飼育されているコウモリを間近で見て、触れて、飛んでいる姿をリアルタイムで観察し、彼らの声である「超音波」の計測と分析をしました。

研究室で飼育されているコウモリたち

研究室で飼育されているコウモリたち

左)日本に一番多く生息するアブラコウモリ。
  (出典:同志社大学飛龍研究室)
右)飛行実験に使用するキクガシラコウモリ。
アブラコウモリより一回り大きく、背中に小型のワイヤレスマイクロホンを装着しています。

飛行実験

飛行実験

コウモリが壁や障害物にぶつかることなく飛行する様子を観察します。
実験は、コウモリが視覚を使えないよう、赤外線ライトの中で行われました。壁の手前で方向転換し、大きく円を描きながら室内を飛び回る姿を、参加者の皆さんは興味深く観察していました。

計測した超音波の解析

計測した超音波の解析

飛行実験でリアルタイム計測したコウモリの超音波を、研究室で普段実際に使用しているPC、解析ツールを使って分析します。
人間の耳には聞こえない超音波を波形で可視化し、間隔やタイミングを読み取り数値をグラフ化しました。この実験で、コウモリがとても器用に周波数を調整しながら飛行していることがわかります。
ほとんどの参加者がエクセルやパワーポイントの操作が初めてでしたが、大学院生に教えてもらいながらデータを完成させてプリントし、各自記念に持ち帰りました。

実験2:コウモリロボットを動かしてみよう!

コウモリが超音波を使って障害物を避けながら飛ぶことができる能力を、ロボットで再現する実験です。この実験では、生き物が持つ能力を、私たちの生活に役立つモノづくりに活かすための研究を体験しました。

コウモリの能力を真似たロボット

コウモリの能力を真似たロボット

コウモリの口と耳の機能を再現した、1つの送信機と2つの受信機を持ち、障害物を避けながら走行するロボット。

ミッション1:超音波で距離を測ろう

ミッション1:超音波で距離を測ろう

コウモリは自分が出した超音波が壁などにあたって跳ね返ってくる時間から距離や角度を知ることが出来ます。
その仕組みを理解するために、ロボットを使って超音波をオシロスコープで観察し、障害物までの距離や角度を計算し読み取りました。
この実験では距離や角度を手計算で求めましたが、コウモリは同じ計算を瞬時に脳で行っていることを知り、コウモリってすごい!と皆驚いていました。

ミッション2:走らせてみよう

ミッション2:走らせてみよう

ロボットが実際に障害物を避けて走行する様子を観察しました。
この技術には、自動運転車のセンサーや視覚に障がいを持つ人々の歩行の手助けなど、わたしたちの生活に役立つ仕組みがたくさん詰まっています。

お菓子タイム〜大学院生の先輩の体験談〜

ミッション1:超音波で距離を測ろう

実験の合間の休憩時間を利用して、大学院生の先輩たちの体験談スピーチがありました。進路選択の動機や大学生活の話など、参加者の皆さんは熱心に聞き入っていました。

進路選択について教えて!

  • 文系の勉強は自力で出来ることが多いけれど、理系の勉強には装置が必要だったり、なかなか自力では難しいので理系を選びました。
  • ○○になりたいという明確な夢は無かったけれど、ものづくりが好きでPCに強くなりたかったから理系に進みました。
  • 数学の問題が解けると嬉しくて、逆に作文系は苦手だったから理系かなと思って選択しました。
  • 子どものころからゲームが好きで、理系ならゲーム作りができると思ったから理系を選択しました。
  • 高校時代は生物選択していて、大学では物理と電気回路を選択しました。
    今は電気回路とプログラミングの勉強をしながら生物学を活かしたロボット作りに取り組んでいます。
  • 大学は自分で授業を選んで時間割を組めます。今はまだやりたいことが無くても、入ってから興味を持つものに出会えると思います。

研究生活で楽しいことは?

  • ワクワクする実験結果が出たとき
  • 周囲の人に興味を持ってもらえたとき
  • 学会で認めてもらうことができたとき

ワークショップを終えて:飛龍先生からのメッセージ

今回のワークショップでは、生き物のことを学ぶにも、数学や物理、工学的な知識や興味などが必要になることを学んでいただけたと思います。また、理系に進んでも、英語力や研究発表のためのスピーチ力、表現力など、文系の要素を求められる場面は多くあります。
将来的には文理の隔たりはなくなり、学問はより融合的なものになっていくと思いますので、これからはひとつの分野だけでなく、プラスアルファの何かを持って欲しいと思います。そのためにも、皆さんには広い視野を持って、色々なことを学んで欲しいと思います。
理工系(だけでなく社会一般も含め)で活躍する女性が増えてきていますが、誰もがスーパーウーマンになる必要はありません。勉強、仕事、結婚、子育て、全てを無理せず両立できる社会が理想です。そのためには周囲の人たちとの協力や理解がとても大切です。今、少しずつですがそういった空気が出来始めていると思いますので、皆さんにはどうか興味を持ったこと、面白いと感じたことを挫けず頑張って欲しいと思います。

終了後のアンケートでは「生物を学ぶにもたくさんの分野の知識が必要だとわかり、もっと勉強しようと思いました。」「現役の学生の方の話が聞けて良かった。」などの感想が寄せられました。今後も日立財団では理工系女子を応援する色々なイベントを企画・開催していきます。

終了後、教室で記念撮影(前列左端:飛龍先生)

終了後、教室で記念撮影(前列左端:飛龍先生)