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2021年度表彰概要

日立財団アジアイノベーションアワードは、ASEANの社会課題解決と持続可能な社会実現に資する科学技術イノベーションを促進するために、2020年度より開始した表彰事業です。

本アワードでは、持続可能な開発目標(SDGs)への貢献を目的として、あるべき社会像を描き、科学技術の社会実装を計画に入れた優れた研究および研究開発において、画期的な成果をあげ、明らかに公益に供したと思われる個人またはグループを表彰します。

2021年度は、ASEANの中の6カ国(カンボジア、インドネシア、ラオス、ミャンマー、フィリピン、ベトナム)の21大学および研究機関を対象に、SDGsのゴール14「海の豊かさを守ろう」とゴール15「陸の豊かさも守ろう」のそれぞれ以下のターゲットに貢献する研究および研究開発の成果を募集しました。

14 海の豊かさを守ろう

ゴール14 「海の豊かさを守ろう」
ターゲット 14.1海洋汚染の防止・削減、14.2海洋・沿岸の生態系の回復、
14.4水産資源の回復、科学的な管理計画、14.7経済的便益の増大

15 陸の豊かさも守ろう

ゴール15「陸の豊かさも守ろう」
ターゲット 15.1生態系の保全、回復、持続可能な利用、15.2森林減少防止、劣化森林回復、植林増加、
15.5生物多様性、絶滅危惧種の保護

対象大学および研究機関から推薦による応募を受け付け、書類審査、面接(最優秀賞候補者のみ遠隔で実施)、選考委員会を経て、12名の受賞者が選定されました。

本アワードの表彰式については、今般の新型コロナウイルス感染症の状況より、今年度も開催を見送る決定をいたしました。表彰式のご報告に代えて、以下のとおり、選考委員長講評ならびに、受賞者の研究概要と挨拶をご紹介させていただきます。

選考委員長講評

日立財団アジアイノベーションアワードの選考経過について報告いたします。

日立財団アジアイノベーションアワードはASEANの社会課題解決と持続可能な社会実現に資する科学技術イノベーションを促進するために2020年度から開始した表彰事業です。本アワードでは、持続可能な開発目標(SDGs)への貢献を目的として、あるべき社会像を描き、科学技術の社会実装を計画に入れた優れた研究および研究開発において、画期的な成果をあげ、明らかに公益に供したと思われる個人またはグループを表彰しています。国連が掲げるSDGsの17のゴールと169のターゲットのうち、毎年2つのゴールといくつかのターゲットを選定し、これらに貢献する研究および研究開発の成果を募集し、自国やASEANのあるべき社会像を描いた、成果の社会実装計画をASEANの研究機関から提出いただいています。

2021年度は、ASEAN6か国(カンボジア、インドネシア、ラオス、ミャンマー、フィリピン、ベトナム)の21の大学および研究機関を対象に、SDGsのゴール14 「海の豊かさを守ろう」とゴール15「陸の豊かさも守ろう」のそれぞれ選定されたターゲットに貢献する研究および研究開発の成果を募集しました。

昨年度同様に各国の経済力や科学技術力の差が依然としてあるものの、一部では良い応募内容が見受けられました。また、今年度はアワードを勲章として位置付け、対象の研究に対してプレステージを求めて応募してきている案件が多いと感じられました。
社会課題の解決に向けた多くの研究について、選考基準の内、社会実装の実現性を重視し、選考しました。

選考委員会では国、研究機関の採択率に大きな差が出ないよう、また、多彩な研究をバランスよく表彰するよう配慮しつつ、厳正な選考を行い、2021年9月27日開催の選考委員会において、合計12件の研究、および研究開発の成果(最優秀賞 1件、優秀賞 3件、奨励賞 8件)を選定し、理事会の承認を得て、合計金額10,000,000円の表彰を決定いたしました。
本表彰が社会実装に向けた受賞者の研究に貢献する事とともに、アジアでのプレステージ向上に役立つことを選考委員一同祈念しております。

最優秀賞

「水のBOD5(5日間の生物化学的酸素要求量)測定と水中毒性バイオセンサー装置 (BODTOX)の開発」
最優秀賞

「水のBOD5(5日間の生物化学的酸素要求量)測定と
水中毒性バイオセンサー装置 (BODTOX)の開発」

14 海の豊かさを守ろう
ターゲット 14.1
氏名 Thuy Phuong Thi Pham Thuy Phuong Thi Pham
所属・役職 ベトナム科学技術アカデミー
(Senior Researcher, Department of Process and Equipment, Institute of Chemical Technology)
ベトナム 国旗:ベトナム
研究テーマ 水のBOD5(5日間の生物化学的酸素要求量)推定値の迅速な計測と毒性の高感度検出を行う新しいバイオセンサー装置 (BODTOX)
社会課題 人口増加に伴い、過去100年間で世界の水の需要は6倍に増加しました。このため水不足は世界的な問題になっており、特に世界の人口の60%が住みながら水資源は36%しかないアジアでは問題が顕著で一層深刻になっています。一方で、きれいな水資源、海洋・淡水生態系は農業活動、産業投棄、鉱業から生じる汚染物質の高まる脅威に晒され、不十分な管理がさらに状況を悪化させています。
研究および
研究開発の
成果
費用がかさむ業務用バイオセンサーとは異なり、BODTOX は対象とする排水に存在する自然の細菌共同体を使いバイオチップ、多孔性セラミックス、軽石などの安価な媒体を組み合わせて、または特定用途の業務用微生物を基にしたアルギン酸ナトリウムカプセルを使い、簡単に自作できる充填層バイオリアクターを基本構造としています。検出システム内での気泡と細菌の蓄積が誤ったDO(溶存酸素)信号と反応を引き起こすおそれがありますが、新しい非接触液体流出システムの使用によりこれを完全に防ぐことが可能です。このため、ぜん動ポンプを使って非接触で流体を送り、流路制御用の3方向電磁弁2個に代えて圧縮器からの圧縮空気で動く空気シリンダー3個を採用しています。その結果、検出テストごとに複雑で時間のかかる清浄を行う必要がありません。加えて、BODTOX は新たに開発した半連続操作モードを使っているため、ピーク型の信号、継続的で迅速なBOD5 推定値測定、毒性測定が可能です。
社会実装計画 実際、水質を継続的にモニタリングする効果的な手段がなければ、人間が引き起こす環境災害を防ぐことは不可能です。現在は、非常に複雑で人手と時間がかかる従来の分析方法でBOD5 と水の毒性を測定しています。このため、オンラインでモニタリングすることができません。これに対し今回開発したBODTOXを使えば、低コストで正確・迅速にBOD5 を推定でき、水の毒性を高感度で測定できます。最小限の自動化を備えた標準型BODTOXはわずか1,000米ドルという無理のない投資コストで導入でき、1回のテストにつき運転コストは10ドルと少額のため、特にASEANの発展途上国においてはオンライン・モニタリングと毒性の早期警報の目的にこのバイオセンサー装置が適しています。こうした長所があるため、モニタリング箇所の数を最大化して環境災害の発生可能性を抑制することができ、結果として「海の豊かさ」と「陸の豊かさ」を守ることにつながります。
SDGsへの
貢献
少ない投資・運転コスト、簡単に自作・運転・維持できること、再利用可能で化学薬品不使用というメリットを備えているため、水質モニタリングでのBODTOXの使用は持続可能であり、SDG 目標14.1 (海洋汚染を防止し、削減する)、 15.1 (陸域生態系と内陸淡水生態系の保全、回復および持続可能な利用)、3.9 (有害化学物質ならびに汚染による死亡および疾病を減少させる)、 6.3 (水質、排水処理、安全な再利用を改善する)、6.b (水と衛生に関わる分野の管理における地域コミュニティの参加を支援する)に貢献することが期待されます。
活動の様子

充填層バイオリアクター(PBBR)を基本とするBOD検出システムの概略図

BOD推定機能

毒性測定機能
充填層バイオリアクター(PBBR)を基本とするBOD検出システムの概略図と
実際の排水のBOD推定値と毒性測定の結果


現場でPBBRを自作する簡単な手順とBODTOXのメリット

受賞コメント 今回の受賞は以下の点で我々の成果を披露する絶好の機会となりました。
(1) 水質のオンライン・モニタリングと早期警報に向けてのBODTOXの実用可能性について関係当局の理解を得る。
(2) BODTOXを利用する可能性がある利害関係者の理解を得る。
(3) 安全な水と、持続可能な「海の豊かさ」、「陸の豊かさ」に対する人々の意識を高める。

優秀賞※氏名アルファベット順

「水銀・シアンを使わない金抽出法の開発と社会実装」
優秀賞

「水銀・シアンを使わない金抽出法の開発と社会実装」

14 海の豊かさを守ろう
ターゲット 14.1
氏名 Herman Dumpit Mendoza Herman Dumpit Mendoza
所属・役職 フィリピン大学ディリマン校
(Professor, Department of Mining, Metallurgical, and Materials Engineering of the College of Engineering)
フィリピン 国旗:フィリピン
研究テーマ 人々のエンパワーメントと参加を目指した業界主導の統合的な非水銀・非シアン金抽出法 (CLINN-GEM) 技術
社会課題 小規模鉱業はアマルガム法や青化法などの危険な工程の印象がつきまとうため、有害な産業とみなされがちです。しかしながら、フィリピンの80州中30州で約45万人が従事する生活の糧でもあり、国の金生産の70–75%と重大な割合を占めています。
研究および
研究開発の
成果
人間と環境の健康双方に及ぶリスクを最小限に抑えるため、小規模鉱業事業者と継続的に協力しながらCLINN-GEM技術を開発しました。これは水銀とシアン化物の使用を完全に排除した、クリーンかつ持続可能な金の選鉱技術です。より安全で環境にやさしいだけでなく、選鉱時間の短縮化と金の回収率向上が実現し、運転コストは従来の方法と変わりません。またこの技術によって、廃棄物管理と尾鉱処理の面で小規模鉱業による環境フットプリント(負荷)が一層小さくなります。
4つの主要地域にCLINN-GEM設備が設置され、運営が引き継がれています。
社会実装計画 このプロジェクトが指揮を執って、政府、地方自治体、学界、関連業界の間での有意義な協力を実現しました。
主要ステップ:
1) テスト、研修、設備の設置
2) 業界関係者の動員: 運営チームの組織化、集会及び会議の定期モニタリング、小規模鉱業事業者による実地の設備運営
3) CLINN-GEM が規制当局による承認を受け、主要技術として運用される場合に、技術の所有権及び管理責任
最終目標は、地域で認められたロイヤルティ無償のライセンス契約を通じて、小規模鉱業事業者に技術移転することです。同技術は簡易な構成部品を使用しているおかげで、メンテナンスと規模拡大が容易であり、どの地域でも複製可能であるため、持続可能性が極めて高くなっています。
SDGsへの
貢献
CLINN-GEM技術は、フィリピンにおけるグリーンで責任ある鉱業を提唱しており、健康と環境を犠牲にすることなく小規模鉱業事業者が生活の糧を維持することを可能にします。実証済みである総体的に高い金の回収率が生産性向上につながるため、同技術により小規模鉱業事業者の経済状況が上向き、自給自足と自活を促します。
活動の様子

  • 小規模鉱業事業者との調整を図り、社会的な準備を整える


  • 小規模鉱業事業者へのワークショップ及び技術セミナー


  • 小規模鉱業事業者の運営グループによるフィールドテスト及び研修


  • ワークショップにおけるCLINN-GEMのプレゼンテーション


CLINN-GEMパイロットプラントの施設と場所(5-15 MTD)


CLINN-GEM技術及び設備を使用するロイヤルティ無償ライセンスの委譲及び付与

受賞コメント CLINN-GEM技術は、経済開発、人間の幸福、環境保全の共存を可能にします。貢献が見落とされがちで、支援が届きにくい小規模鉱業事業者たちが、自らの生活を支える土地の環境を守る役割を果たせる世界をこの技術が新たに生み出します。
「遷移金属酸化物触媒による排気ガスおよび排水の処理技術」
優秀賞

「遷移金属酸化物触媒による排気ガスおよび排水の処理技術」

15 陸の豊かさも守ろう
ターゲット
15.2 15.5
氏名 Thang Minh Le Thang Minh Le
所属・役職 ハノイ工科大学
(Professor, Department of Organic and Petrochemical Technology)
ベトナム 国旗:ベトナム
研究テーマ 陸と海の豊かさを守るための排ガスおよび排水処理に向けた遷移金属酸化物触媒と技術
社会課題 費用をかけられず、効果的な環境ソリューションが導入されていない工場での工業生産によって排出される化学廃棄物は、陸と海の豊かさに深刻な影響を与えています。そうした工場の排ガスおよび排水に含まれる環境汚染物を費用効果の高いソリューションで処理することが、発展途上国では喫緊の課題になっています。
研究および
研究開発の
成果
排ガスおよび排水に含まれる炭化水素、VOC(揮発性有機化合物)、CO(一酸化炭素)、NOx(窒素酸化物)等の環境汚染物を処理する費用効果の高いソリューションは、貴金属の代わりに様々な遷移金属酸化物の触媒を使用する方法です。セラミックモノリス上に遷移金属酸化物を異なる配合で付けた複数の種類の触媒を発明し、状況に合わせて適用しました。同触媒は汚染物排出を90%以上減少させることが可能で、過酷な状況でも安定し、耐用期間も長くなっています。
環境汚染物を異なる組成で柔軟に処理する多様な技術が、ベトナムの複数の工場に順調に導入され、周辺地域への悪臭放出を大幅に減らすことに成功しています。
社会実装計画 ベトナムにおける様々な遷移金属酸化物触媒の活用は、環境保護に役立っています。処理後の排ガスと排水は国の基準を満たし、周辺環境への排出が許可されたため、周辺の生活を守ることにつながっています。今回発明した触媒と技術は、廃棄ゴム熱分解工場からの排ガス処理、不飽和ポリエステル生産工場の排ガスおよび排水処理、発電所の窒素酸化物処理の試験導入に活用されています。一部の触媒は消防士のCO防護マスクの生産や中古オートバイの排気管に使われています。
SDGsへの
貢献
今回の触媒および技術が環境汚染に直面しつつも費用をかけられない多くの企業で広く活用されれば、国と地域の環境が大幅に改善し、海(目標14)および陸(目標15)の豊かさにつながる健康的な生活と職場環境がもたらされます。
活動の様子

  • オートバイ用触媒コンバーターについての紹介


  • 廃棄ゴム熱分解工場の排気管に備えられた触媒(ベトナム、ハイズオン)


  • 廃棄ゴム熱分解プロセスの排ガス処理用触媒および触媒炉


  • 「テックフェスト・ベトナム2021」展示の触媒コンバーター

受賞コメント 炭化水素、VOC、CO、NOx等の環境汚染に直面しつつも費用がかけられない工場にとって、遷移金属酸化物触媒は最適なソリューションになります。私たちの環境を守るために、同触媒を積極的に活用していただければと思います。我々の目標である環境の改善のために、このイノベーションの技術移転をする準備があります。
「水と土壌の汚染を軽減するグリーン技術を用いた植物性殺虫剤開発」
優秀賞

「水と土壌の汚染を軽減するグリーン技術を用いた植物性殺虫剤開発」

15 陸の豊かさも守ろう
ターゲット 15.1
氏名 Yenny Meliana Yenny Meliana
所属・役職 インドネシア国立研究革新庁(旧インドネシア科学院)
(Head of Research Center for Chemistry, Research Center for Chemistry)
インドネシア 国旗:インドネシア
研究テーマ 持続可能な環境に向けて水および土壌の汚染を乗り越えるためのグリーンテクノロジーを使った植物性殺虫剤
社会課題 持続可能な農業には持続可能な害虫管理が含まれます。一般に害虫管理では、人間の健康を損なう可能性があり、あらゆる生命体と環境に有害な化学製品を用いた殺虫剤が使われています。代替品として植物性殺虫剤を活用すれば、農業従事者にとってより安全な環境にやさしい製品となり、農業生産性が上がり、水と食品の品質が維持され、土壌中の化学殺虫剤の蓄積を低減させ、健康的な生活に対する社会の意識が向上すると期待されます。
研究および
研究開発の
成果
我々は殺虫剤製造業ですでに認可されているニーム油を活性薬剤として、ナノエマルジョン(乳剤)の植物性殺虫剤を調合しました。パーム油をベースとする界面活性剤と活性剤として精油・植物油を使っているため、環境にとって比較的安全な調合物となっています。同殺虫剤は1:100の水で希釈して使用します。同殺虫剤はすでに量産され、現場で活用されています。西カリマンタン州クタパンでの農業従事者への教育と農村地域開発、ブリトゥン島のコショウ農家と西ジャワ州バンドンの園芸農家に対する技術支援等、我々は農業改良普及活動を通じて植物性殺虫剤の重要性に対する意識向上を図っています。
社会実装計画 主な目的は、農業従事者の健康を向上させ、環境汚染を低減することです。農業従事者に殺虫剤の適切な使用方法を教え、植物性殺虫剤の使用を推奨するための農業改良普及活動を実施しています。また、農村地域の保健担当者と協力して、農場で植物性殺虫剤を使用する従事者への無料健康相談を実施することを計画しています。加えて、化学物質検討委員会(CRC)の会議にも積極的に参加し、インドネシアでその成果を実践しています。
SDGsへの
貢献
SDG目標の15 「陸の豊かさ」、15.1「陸域生態系と内陸淡水生態系の保全、回復および持続可能な利用」に貢献しています。植物性殺虫剤の利用により、農業従事者の中毒症を低減させ、水・土壌汚染の原因となる永続的な残留化学物質を減らすことが可能であり、結果として社会が質の高い水と食品の恩恵を受けられます。
活動の様子

  • ブリトゥン島のコショウ農家への技術支援


  • 農業改良普及活動:西カリマンタン州クタパンでの農業従事者への教育と農村地域開発


  • 植物性殺虫剤の試験的な大量生産


  • 西ジャワ州バンドンの有機野菜・トマトに対する技術支援

受賞コメント チームを代表して、今回の受賞に対し日立財団に感謝申し上げます。健康的な人類と環境を実現するために、社会はグリーンな製品と技術を目指して常に進化しています。母なる自然を育むことは、我々と我々を受け継ぐもののために、持続可能な環境を生み出すための義務といえます。

奨励賞※氏名アルファベット順

奨励賞
「総合浮遊処理湿地および曝気システム導入によるマニンジャウ湖の水質改善と生態系回復」
Cynthia Henny

「総合浮遊処理湿地および曝気システム導入によるマニンジャウ湖の水質改善と生態系回復」

15 陸の豊かさも守ろう
ターゲット15.1 15.5
氏名 Cynthia Henny
所属・
役職
インドネシア国立研究革新庁
(旧インドネシア科学院)
(Researcher, Research Center for Limnology)
インドネシア 国旗:インドネシア
研究
テーマ
総合浮遊処理湿地および曝気装置導入による湖の水質改善と生態系の環境的メリット:マニンジャウ湖の再生
研究概要
マニンジャウ湖では20年間以上も持続不可能な浮き生け簀漁(FCF)が行われてきた結果、水質の著しい悪化や湖水の富栄養化、低酸素状態、生物多様性の喪失、魚の大量死が発生し、湖の生態系サービスが失われています。観光地やFCFの盛んなエリアでグリーンテクノロジーとして総合浮遊処理湿地および曝気装置を導入したところ、湖の水質改善や酸素レベルの上昇がみられ、魚やその他生物相の数も増加しました。さらに生態系も健全性も向上し、環境面でのメリットも増大しました。コミュニティの意識や責任感を高めれば、導入したテクノロジーの維持にもつながります。良質の水から恩恵を得て、魚の個体数を増加させ、湖の快適性や生物多様性、観光業、さらには社会経済的価値も高めることも可能になります。我々の研究開発は持続可能な開発目標(SDGs)のうち、とくに目標6、11、15(目標15-1:内陸淡水生態系の保全、回復および持続可能な利用)に貢献しています。生態系に根差したテクノロジーを導入すれば、水質改善や生物多様性の維持によって水や天然資源といった湖の生態系を保全するだけでなく、持続可能な生態系の健全化を後押しします。健全な生態系は持続可能で、強靭かつ健全な社会を支えます。
「石油・ガス産業に起因する有機 性汚染物質による水・土壌の汚染に対する微生物浄化剤の開発と応用」
Edwan Kardena

「石油・ガス産業に起因する有機 性汚染物質による水・土壌の汚染に対する微生物浄化剤の開発と応用」

14 海の豊かさを守ろう
ターゲット14.1 14.2
氏名 Edwan Kardena
所属・
役職
バンドン工科大学
(Assoc. Prof., Dr., Faculty of Civil and Environmental Engineering)
インドネシア 国旗:インドネシア
研究
テーマ
水や土壌(沿岸部を含む)の有機汚染物質対策としての微生物由来浄化剤の開発および応用
研究概要
人間の活動は副産物として残留物を排出し、環境問題を引き起こしています。大都市の河川や河口域、沿岸部は汚染され続けています。汚染は海水への石油流出などの事故で引き起こされる場合もあり、結果的に沿岸部の環境の質を損なうことになります。微生物群の力を活用して汚染物質を除去する研究から作り出されたのが、汚染された環境を修復する代替技術です。例えば石油流出により汚染された沿岸部の砂、土壌、岩石を、より地球にやさしい形で浄化することができるようになります。同じ技術を、環境(水や土壌)が様々な有機汚染物質に脅かされている同様の他の問題に応用することもできるでしょう。貧弱な自然環境は健康上の問題を起こしかねません。そうすればコストもかかり、地域社会の経済状況も悪化します。この研究は最終的に、国連の持続可能な開発目標(SDGs)の健康および環境関連項目を支える上で役立つことでしょう。
「ワラセア地域の大規模空間における効果的な沿岸・海洋管理の実現」
Jamaluddin Jompa

「ワラセア地域の大規模空間における効果的な沿岸・海洋管理の実現」

14 海の豊かさを守ろう
ターゲット14.2 14.4
氏名 Jamaluddin Jompa
所属・
役職
ハサヌディン大学
(Deputy Director, Division of Research and Innovation)
インドネシア 国旗:インドネシア
研究
テーマ
大規模な空間スケールでワラセアの効率的な沿岸海洋管理を可能にする:環境DNA(eDNA)を応用した科学に基づく管理と地元運営の海洋保護区(MPA)サポート
研究概要
ワラセアの海洋生物多様性ホットスポットであるインドネシアは、自然に恵まれ、生命力あふれる豊富なサンゴ礁が、持続可能な経済成長の基礎となる生態系サービスをもたらし、生活を支えてきました。しかしながら、インドネシアはこうした国家遺産を維持する上で深刻な問題に直面しています。人間の活動(持続不可能な資源の搾取、汚染等)による多くの脅威に加え、科学に基づく管理に必要なデータやリソースが限られています。我々は最先端の技術と地域社会の包摂性という2つの方面からアプローチしました。環境データを地方から生態地域の規模で収集する信頼性のある費用効率の高い手法として環境DNA(eDNA)を、また持続可能な海洋生態系管理・再生のソリューションとして海洋保護地区(DPL:地元運営の禁漁区)の最新モデルを試験導入しました。この研究は機会や脆弱性の特定、保全における優先事項や行動の決定、SDGs、とくに目標14「海の豊かさ」に対する地球規模での貢献で、インドネシアのあらゆるレベルの政策担当者をサポートします。
「脱硫技術設計を活用したバイオガス利用効率の向上による大規模なバイオガス導入の促進」
Lyhour Hin

「脱硫技術設計を活用したバイオガス利用効率の向上による大規模なバイオガス導入の促進」

15 陸の豊かさも守ろう
ターゲット15.1 15.2
氏名 Lyhour Hin
所属・
役職
王立農業大学
(Lecturer, Faculty of Agricultural Engineering)
カンボジア 国旗:カンボジア
研究
テーマ
適切な規模での脱硫技術設計を活用したバイオガス利用効率の向上による、カンボジアにおける大規模なバイオガス導入の促進
研究概要
畜産農場の廃水を処理して電力に変換することは、カンボジアにおける持続可能な開発の鍵となります。あらゆる農場形態の中でも商業用養豚場は大量の廃水を排出し(1頭あたり1日30m3)、年間エネルギー消費量も膨大です(1頭あたり年間30kWh)。この問題に対処するべく、閉鎖型ラグーン槽の利用が増えていますが、発電機の劣化が早いことから、我が国での導入率は低い状態です。その主な原因は、バイオガスに含まれる硫化水素(H2S)の腐食性です。したがって、発電機にバイオガスを送る前に、まずこれを処理しなくてはなりません。研究開発のテーマとして一連の脱硫技術試験を行った結果、適切なH2S除去システムを用いることでH2Sが効果的に除去され、発電機使用時の推奨値である200ppm以下にまで下げられることが示されました。これを踏まえ、我々は今後の研究テーマとして、価格や効率の面で農場に適切なH2S除去技術の設計開発、農場・民間企業と協同で行うプロトタイプ作成に向けた開発技術の経済的評価の実施、そして作成されたプロトタイプを用いたスタートアップ事業の開発を目指しています。最終的な目標は、廉価なバイオガス技術の推進とバイオガスシステムの普及促進によりSDGsを達成し、長期的な畜産農場の脱炭素化達成を支えてゆくことです。
「循環型経済に向けて、難処理排水や電子機器廃棄物から有価金属を回収するスマートソリューション」
Ngan Thi Tuyet Dang

「循環型経済に向けて、難処理排水や電子機器廃棄物から有価金属を回収するスマートソリューション」

14 海の豊かさを守ろう
ターゲット14.1 14.7
氏名 Ngan Thi Tuyet Dang
所属・
役職
ハノイ工科大学
(Msc., PhD student, Lecturer, Department of Chemical Engineering)
ベトナム 国旗:ベトナム
研究
テーマ
ESMS–処理が困難な廃水やe-wasteから有価金属(インジウム、コバルト、ユーロピウム等)を回収し、ベトナムの循環型経済を進めるスマートソリューション
研究概要
電気電子機器の廃棄物、いわゆるe-waste(電子ごみ)は、もっとも急速に増加しているごみのひとつです(1年あたりの増加率は3〜5%)。世界のe-wasteのうち、適切な経路できちんとリサイクルされているのはわずか20%にすぎません。それに加えて大量の廃水が日々発生しています。したがって、e-wasteや廃水を処理する適切な技術を開発することで、環境を保護するだけでなく、経済的価値を得ることが可能になります。
従来の溶媒抽出法に代わるものとして開発されたESMSソリューションには、以下のような数々の利点があります。
- 化学物質の要求量が非常に小さいため、環境への負荷を最小限に抑えるとともに、高価な抽出剤を使用することが可能
- 優れた性能(廃水から最大99.5%の金属を除去、90%を上回る回収効率を実現)
- コンパクトな設計(1段抽出・逆抽出よりさらに小型)
- 操作が簡単で、拡張が容易 この技術は、2つの形で市場に出すことが可能
- 製造企業への直接販売
- 実験室規模での設置 我々の研究開発は、SDGsの中でもとくに目標14、15に貢献
「流域保護のための宇宙ベースの管理・監視システム」
Roel Mallari De la Cruz

「流域保護のための宇宙ベースの管理・監視システム」

15 陸の豊かさも守ろう
ターゲット15.1 15.2 15.5
氏名 Roel Mallari De la Cruz
所属・
役職
先端科学技術研究所
(Engineer, Department of Science and Technology)
フィリピン 国旗:フィリピン
研究
テーマ
流域保護を目的とした宇宙ベースの管理監視システム
研究概要
DOST-ASTI(科学技術省 先端科学技術研究所)は長年能力構築活動を通じて、様々な面から宇宙を利用した研究開発計画を提示し、フィリピン国内機関の災害リスク軽減管理(DRRM)や資源監視対策を補完してきました。
また、地球観測(EO)の応用について、当研究所の科学技術インフラや研究活動を通じた能力構築やレジリエンス強化の取り組みも始めています。地球観測データを適切に使用すれば、気候変動や災害のリスクを大幅に抑えることが可能です。
我々は国内マッピング運用を目的とした高速かつ効率的な技術やイノベーションを強化して、森林や流域の資源管理を目的とした衛星監視システムの開発を目指しています。
DOST-ASTIはSDGsを念頭に置きつつ、リモートセンシングや地理情報分析を駆使しながら、関係機関と協力して森林・流域の監視や水産養殖マッピング(養殖池、養殖ケージ、養殖用囲い、海藻、牡蠣/ムール貝養殖地の管理)に適切な地球観測データとハザードマップの融合を進めています。
「ナムグム川流域の環境・健 康・福利改善のための有機農業の再生と強化」
Vatthanamixay Chansomphou

「ナムグム川流域の環境・健康・福利改善のための有機農業の再生と強化」

15 陸の豊かさも守ろう
ターゲット15.1 15.5
氏名 Vatthanamixay Chansomphou
所属・
役職
ラオス国立大学
(Dr., Faculty of Environmental Sciences)
ラオス 国旗:ラオス
研究
テーマ
有機農業:ナムグム川流域の環境・健康・福利改善のための文化遺産
研究概要
昨今、膨大な量の化学物質がナムグム川流域(NNRB)の土地に排出されています。こうした行為は土壌の質を大いに脅かし、環境を損ね、最終的には人間の健康や福利にも影響を及ぼします。
提案のプロジェクトは、NNRBに有機農業という持続可能な方法を再生し、強化することを目指しています。このプロジェクトではNNRB流域の農家が持つ昔ながらの知識や知恵の共有・交換・融合を目的とした国境を越えるプラットフォームを立ち上げます。
情報研修や情報発信活動により、農家と専門家が意見や経験を共有・交換する場を提供します。地元農家や学者、研究者、活動家、政府職員など、ラオス人民民主共和国全国からメンバーを集め、ラオスの有機農業ネットワークを立ち上げます。
有機農業は自立的な農業です。環境や自然を保全するだけでなく、我が国の貴重な農業の伝統と文化遺産も守ります。提案のプロジェクはNNRBで持続可能な有機農業を再生し、強化してゆくことでしょう。このプロジェクトはSDGsの目標15「陸の豊かさ」、中でもとくにターゲット15.1「陸域生態系と内陸淡水生態系の保全、回復および持続可能な利用」とターゲット15.5「生物多様性の損失を阻止し、絶滅危惧種を保護する」に貢献します。
「持続可能な農業のためのトリコデルマ技術」
Virginia Castillo Cuevas

「持続可能な農業のためのトリコデルマ技術」

15 陸の豊かさも守ろう
ターゲット15.1 15.2 15.5
氏名 Virginia Castillo Cuevas
所属・
役職
フィリピン大学ロスバニオス校
(Professor Emeritus, Environmental Biology Division)
フィリピン 国旗:フィリピン
研究
テーマ
持続可能な農業のためのトリコデルマ技術
研究概要
農業はフィリピンの地方における食料安全保障と生計を支える主要産業です。世界的気候変動は農業に甚大な影響を及ぼすため、我が国は世界的気候変動の影響をもっとも受けやすい国のひとつです。エルニーニョおよびラニーニャ現象の頻発や大型台風に代表されるように、常軌を逸した降雨現象が発生しています。フィリビンの小規模農家は資源も乏しく、経済能力も限られているため、とくに被害を被っています。ある年不作になれば、農家の家族は困窮状態に陥ります。トリコデルマ技術(TT)は、そうした窮状の緩和を目的としています。
TTには農業廃棄物の急速分解活性剤とトリコデルマ微生物資材(TMI)が含まれていますが、これは作物の成長促進、作物病害の生物学的防除、バイオ肥料を目的としています。活性剤で作物の残留物を分解して作った堆肥は土壌の生物相を豊かにし、土壌の物理的・化学的特性を向上させます。土壌の保水力を増加させることで、とりわけ干ばつ期には土壌生態系に強靭性をもたらします。化学肥料の使用を半減させ、殺虫剤を不使用または最小限にとどめた場合でも、TMIのおかげで作物の生産量は増加します。トリコデルマは栄養剤の使用効率を上げるとともに、作物を病害から守り、害虫に対する全身抵抗性をもたらします。殺虫剤や化学肥料による汚染も少なくなり、土壌や水資源も保全されます。こうしたメリットは、土壌の健全化と農家の収入増につながります。健康な土壌から健康な作物が生まれ、健全なコミュニティを育み、農家の収入も増加して生活の質も向上します。
地方自治体の各部署や農家、民間企業、地元の州立カレッジや州立大学など、多業種との連携により、地方自治体の農業回復、土壌廃棄物管理、生物学的環境修復プログラムでTT導入を推し進めていくことが可能となります。当大学(フィリピン大学ロスバニョス校)の指揮のもと、州立カレッジや州立大学の研究能力はTT研修を通じて強化されていくことでしょう。研修を修了したスタッフは、各地域の農家や自治体の農業職員がその土地特有の土壌や気候変化に応じてこの技術を応用させるサポートとなります。この技術をその他政府の対策と並行して実施し、かつ管理を徹底させてゆけば、今後20〜30年間でいくつかの持続可能な開発目標(SDGs)達成できるでしょう。具体的には、目標1:貧困をなくそう、目標2:飢餓をゼロに、目標3:すべての人に健康と福祉を、目標15:陸域生態系の保全、回復、持続可能な利用の推進などが挙げられます。