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日立財団 Webマガジン「みらい」VOL.2
日立財団50周年記念シンポジウム 子どもへの投資が明日をつくる ─ 教育と社会的リターン ─
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講演録 3

親力できまる子どもの将来

教育評論家

親野 知可等 氏

みなさん、こんにちは。親野智可等と申します。小学校の教壇に23年間立ってまいりました。
その前は、3ヶ月ではありましたけれども中学校で国語を教えていたこともあります。
そのような体験を元にお話をさせていただきます。

叱ることには、こんな弊害があります。

親御さんたち、あとは、先生や親戚など周りの大人たち、それぞれに子どもに対する願いというものがあります。自分で勉強するようになって欲しいとか、挨拶するようになって欲しい、ちゃんと顔を洗う、といったこと。その結果どうなるかといいますと、叱ることが増えちゃうんですね。「また勉強していない。ちゃんとやらなきゃダメでしょう」「またオモチャ出しっ放し!ダメでしょう」こういう言葉をいつも浴びている子たくさんいます。こういう言葉をいつも浴び続けますと、児童心理学ではいろんな弊害が出るといわれています。その代表的なことをご紹介します。

■自己肯定感がボロボロになる

間違いなく自分に自信を持てなくなっちゃいますね。「僕ってダメな子だな」、「どうせ私なんかダメだよ」ってなっちゃうんですね。勉強はもとより遊びでも、運動でも、生活習慣何事においても、「無理だよ」と思ってしまって、やる気が出てこなくなる。もしやったとしても、ちょっと壁があると乗り越えないんですね。自分で伸びていく芽というのをあらかじめ摘み取ってしまう。
逆に、自己肯定感が高い子は強いですよ。勉強でももちろん、遊びでも運動でも生活習慣でも、「できそう!」「やってみたい!」「できるはずだ!」という気持ちが強いから、結局できちゃうんですよね。だから、自己肯定感があるかないかって非常に大きいですね。先ほどの講演で中室牧子先生がおっしゃっていた、非認知能力と同じ意味合いです。

■愛情確認、そして反社会的行動に走る

「お父さん、僕のことダメな子と思っているかな」「こんな私なんかどうでもいいかな、愛されていないかな」、こういう気持ちが出てきてしまうんですね。そうすると子どもたちは非常に不安。その子の存在基盤に関わる根源的な不安感を抱えることになります。不安になると、深層心理学では、愛情確認行動に走るといわれています。愛情を確認できないから確認したいんですね。まず危険なことをしたりして、けがをする確率が増えます。次は反社会的行動。万引き、落書き、物を壊す、弟や妹をいじめる、クラスの弱い子をいじめる。思春期以降になると深夜徘徊してしまうとか、スマホの出会い系サイトにはまり込んでしまう。そういうことをすると親が心配したり、パニックになったり、うろたえたりします。そういう姿を見て子どもたちは、親が自分のことを心配していることを確認したいんですね。

■親子関係の崩壊、対人関係の不信が広がる

最終的に、親子関係が崩壊します。親からしたら「なんなの?この子はいったい」、子どもからしたら「この親、俺のことなんかいいんだ」となる。親子関係というのは人間関係の第一歩なので、ここで不信を土台にしてしまうと、その後の人間関係も不信を土台にして作るようになります。兄弟、友達、先生との関係、その他一生涯にわたる人間関係の土台が不信感になる可能性が高い。私は650人の子どもを担任として受け持ちましたけども、「この子は人間不信があるな」と感じさせる子がいて一番心配でしたね。

叱らなくてもすむ工夫をしましょう。

では、そうならないためにどうしたらいいか。私はいつも、叱らなくてもすむ工夫をしてくださいと言っています。その工夫には2種類あります。

1. 方法の工夫

習慣づけをするために

子どもが叱られていることって、だいたいいつも同じなんですよ。生活の流れがそういうふうになっちゃっているんですよね。だから、それを断ち切って叱らなくてもすむようにする。例えば、よく歯を磨くのを忘れて叱られている子は、叱ってもしょうがないんです。そういう子は、磨けるようにしてあげれば良い。ごく簡単なのは、みなさんがお茶碗やお箸を出すときに、ついでに歯ブラシも持たしておく。マナー的にはどうかなと思いますけど、とにかく叱らずにすませるということが大事。それで磨いていたら褒める。「この頃自分で磨けるね」「うん、自分で磨ける」と。1週間ぐらい続けたら、ある日歯ブラシを出すのをやめてみる。それでも磨けたら、さらに褒める。磨けなくなっちゃったら、また出してあげれば良いだけ。あるいは、最初から自分で出すようにしてもいい。いろんな工夫ができます。

宿題をやらない子どもには

とりあえず帰ってきたら、ランドセルの中身を全部この箱に出しましょう。この方法、実際やっているんですけど、非常に効果があります。ランドセルが2つぐらい入る広さで、深さはそんなに深くなく5~6センチの広くて浅い箱。ここに、ランドセルの中身を全部出すんです。2ヶ月前の臭い靴下とかが、入れっぱなしになるのが防げる。何より、宿題に関係するものが全部その日にチェックできる。これさえしておけば、遊びに行っちゃってもいいんです。帰ってきたら、そこに出ているから手に取りやすくなります。できれば遊びに行く前、とりあえず1問やっておくといい。1問やると、宿題の全体がわかって、だいたいこのくらいだなと見通しがつくんですね。見通しがついていると、本格的に取りかかるときに楽になるわけですね。

「模擬時計」を使う

アナログの時計の上と下と右と左に、紙で書いた画用紙の時計の絵を描いて貼る。絵の一つは、朝、着替えが終了する時刻、「着替え終わり」と書いてある。もう一つは朝家を出る「登校」。もう一つは、午後の5時半の「宿題」。もう一つは夜寝る時刻。見ながら、「あと10分で勉強だな」「あと7分で家を出なきゃ、急がなきゃ」とこういうふうになります。「あと7分だよ、分かってるの?」と言っても分からないんですよね、あの人たちは。時間の観念ってほとんどないですから。模擬時計があれば、自分でちらちら見ながら管理するようになります。

2. 言葉の工夫

否定的言葉使いはしない

これは、親子関係だけではありません。夫婦でも、会社の同僚や部下に対してなど、いろんな人間関係で否定語表現をやめるだけで、かなり違ってきます。「また何々していない?しなきゃダメじゃん」と言ってしまうのは相手を咎めていることになるんですよ。これは良くない。大人同士でもそうです。咎めるのをやめるだけでも効果があります。じゃ、どう言う言葉があるかというと、プラスイメージの言い方があります。「先にやっておくと後で遊べるよ」と言ってみる。「先にやらないとダメ」じゃないんですよ。こう言っちゃうと、言われた方は、ちょっとイラッとするんです。こうすると良いよというニュアンスで言ってあげる。この言い方にするだけでもかなり違います。

褒める

例えば、うちの子どもは兄弟仲が悪いなと思ったとき、だいたいの親は叱るところから入ってしまう。「なんで、あんたたち仲が悪いの。もっと仲良くしなきゃダメ!」こんなふうに叱るところから入っちゃうと、弊害として自己イメージが悪くなるんですね。「俺たち、仲の悪い兄弟みたいだな」「俺、なんか意地悪なお兄ちゃんみたいだな」となってしまう。だって、親がそう言っていますからね。それまでそんな認識なかったのに。でも、この自己イメージというのは、無意識層に働きかけるんですね。「仲悪いね」と言われると、頭では「そんなことはないはずだ」と思っていてもそれが自己イメージの設計図になっちゃう。だから本当に仲が悪くなっちゃうんです。だんだん、意地悪なお兄ちゃんになっちゃう。だから叱るところから入るのではなくて、褒めるところから入る。例えば、兄弟2人が仲良くテレビを見ているときに、「あんたたち、仲が良いね」と言ってあげるんです。ただテレビを見ているだけですけどね。こういうふうに褒めるところから入ると、「僕たち仲良いみたいだな」「俺、優しいお兄ちゃんみたいじゃん」となっていきます。

褒めるコツ

でも、褒めるってなかなか難しいですよね。それは、褒めるコツを知らないからなんです。褒めるコツ、一番のおすすめは、部分に注目すること。例えば、漢字書き取り帳を見て、1ページの中には上手に書けているが必ずあります。「この道という字上手いね、花丸」「これも上手いね」と、部分を褒めまくって、5つも6つも7つも花丸付けてあげる。最後に「じゃ、これとこれを直しておこう」って言うと、喜んで直してくれるよね。

単純に言う

プラスイメージで言ったり、褒めることを探すことができないときもあります。そういうときは単純系で良いです。「さあ、お片付けするよ」「さあ、起きよう」これを言うだけでも違います。できたら、ちょっとハードルを下げて促してあげる。「さあ、今のうちに半分やっておこう」「手伝ってあげるからやろうよ」。ちょっとだけでもやり始めるとエンジンがかかりますから、取りかかりのハードルを下げてあげることが大事。なかなか起きない子には、「半分だけ起きてみよう」とかと言うわけ。小さい子で、友達の家でいつまでも遊んでいて 「帰るよ」と言っても「嫌だ!」となる。「じゃ、半分だけ帰ろう」とかと言うんですよ。あるいは、「そろそろ帰る準備したほうがいいかな」とかね。ハードルを下げる。これが大事です。

共感的に聞く

親も先生も周囲の大人も、いろいろ言いたいことはあるでしょうが、とにかく最初は共感してあげてください。「あ~今日は疲れちゃった。勉強したくない」と子どもが言ったら「ダメだよ、しないのは!」と言い返さずに、「そうだよね。疲れるよね、あんたも大変だね」と言ってあげてください。そうするとね、「あ~お母さん、わかってくれた。俺がどれだけ大変かわかってくれた」こういう気持ちになります。それで、しばらく様子を見て。ちょっとしたらね、「そうはいっても勉強やらないわけにもいかないから、ちょっとだけやっておく?」とか、さっきみたいにハードルを下げてね。そうすると、どれだけ大変か分かってもらえているから素直になるんですね。
この、共感してあげるときのキラーフレーズがあります、それは「あなたも大変だね」ってひと言。子どもだけでなく大人でも、おじいちゃん、おばあちゃんにも誰にも有効。なぜなら人間はみんな大変で、みんなやっと生きてるんですね。だから、「大変だねえ」と言われるとうれしいんだよね。そう言われると心がスッキリして、素直にいろいろ話したくなります。

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※本講演録は、日立グループの見解を表明するものではありません。

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