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日立財団 Webマガジン「みらい」VOL.2
日立財団50周年記念シンポジウム 子どもへの投資が明日をつくる ─ 教育と社会的リターン ─
日立財団

基調講演 講演録

「毎日かあさん」から学ぶ楽しい子育て

漫画家

西原 理恵子 さん

進行役 フリーアナウンサー

小林 美紀 さん

子育ては、親にとっての大きなテーマです。大切なわが子をどのように育てるか。育児と仕事をうまくバランスさせるにはどうすればいいか。日々成長し自立していく子どもとどう付き合うか。子育てとはわが子を通して日々、発見や驚き、達成感や後悔、喜びや不安と向き合うことともいえそうです。今回のシンポジウムの基調講演では、子育ての毎日の風景を漫画絵日記風にまとめた「毎日かあさん」で大きな反響を巻き起こした西原理恵子さんをお招きして、西原さん流の子育てについてお話をして頂きました。元気な男の子と女の子の母として、漫画家として働く女性して、アルコール依存症に悩む夫の妻として日々を送ってこられた西原さん。2017年には「卒母」を宣言し、自立の世代を迎えたわが子と新たな関係を築こうとされています。「毎日かあさん」で描かれていた家族の笑いや涙の裏には、西原さんのどういったお気持ちがあったのでしょうか。子育てをはじめ、家事と仕事の両立、成長する子どもたちへの思い、「卒母」といったキーワードで、フリーアナウンサーの小林美紀さんの進行のもと講演が行われました。その概要をこのページでご紹介します。また講演の詳細を記録したムービーもご用意していますので、そちらもあわせてご覧ください。

INDEX

  • 西原さんの子育て「抱っこ、抱っこ」と言ってくれるのは5歳くらいまで。だから・・・
  • 仕事と育児の両立お母さんって想像を絶するくらい寝不足だから、判断を間違える
  • 成長する子どもへ王子様は待たないで。幸せは自分で取りに行ってください
  • 「卒母」後の子どもとの距離私はここにいる。ドアはいつでも開いてるよ
  • 西原さんに質問コーナー
  • 講演のムービーはこちら
西原理恵子さん 小林美紀さん
右:西原理恵子さん 左:小林美紀さん

西原さんの子育て

「抱っこ、抱っこ」と言ってくれるのは5歳くらいまで。だから・・・

小林西原さんは、お子様が小さかった頃はどんなことを思って、どんな事を願って、子育てをされていたのでしょうか?

西原うちにアルコール依存症の夫がいましてね、もうそれどころじゃなかったんですよ。家の中に病人がいると家全部が傾くんですね。難破船になるというか、火のついた家の中を逃げ回っているというか。もうどうしたらいいんだろう、どうしたらいいんだろうということばっかりだったんです。だから毎日毎日、(子どもには)何か面白いこと見つけようねと言って、よく保育園とか小学校は休ませていたのは覚えていますね。
一緒にうどんを食べに行こうとかね。焼きそばを食べに行こうとか、公園に行こうよとか言って、よく外に行って煮詰まらないように、そういう毎日でしたね。よくアルコール依存症の人とかDVの人とか、どうして結婚する前に分からなかったのと周りの人によく言われるのですが、本気で嘘ついている人たちにはかなわないんです。相手が弱いと分かったら(夫の暴力が)急に芽を出す。うちも典型的だったんですけど、出産した後だったんです。出産したり妊娠したりしたらまず仕事はできない。弱い小さい赤ちゃんをかかえては夜逃げができない。そこから頭ごなしに(暴力が)始まります。あとで被害者女性の会とかで話を聞いたら皆そうでした。だから子どもが5歳、10歳になるまでお母さんは逃げられないまま終わってしまう。これって(一般の人では)対応しようがなくてプロしか頼っちゃいけないんですよ。親戚のおばちゃんとか一番介入しちゃいけない。暴力とか貧困とかそういう世界というのはとにかくサバイバー(生き延びた人)とか専門家に被害者が聞きに行く。そこで(治療などに)成功して戻って来た家族の方々に話を聞く。そうして知識を入れておく。それを息子、娘に言ってます。貧困に陥らないために暴力から逃げ出せる知識だけは入れておこう、結婚前に内緒のお金持っておけとか、夜逃げの金を持っておけとか。娘によく言うのですが、断捨離の「だん」は男という字だからと(笑)。

小林さまざまな問題が起こっていても楽しんで子育てしたい、笑っていたいという西原さんの気持ちがよく伝わってきます。でも、やはり子育てというのはどんなに明るいお母さんでも時にストレスを抱えてしまうことがあると思うんですが…

西原私がギャンギャン怒られた子どもなんです。何のために働いたかというと子どもを怒るために働いているんじゃない、子どもと笑うために働いているんだと、引き算をまず考えたんですよ。子どもを怒らないためにどうすればいいか、「勉強しなさい」と言うのをやめるとめっちゃ怒らなくて済むんですよ。あと、「早くしなさい」。それを言わなきゃいけないときはもう遅刻してもいいと思ってました。それから食育ですね。とにかく外食させて孤食にすると子どもが不良になるとかいうけど、韓国とか香港とかは子どもたち外食ですよ。それでも日本より学力高いですから。東南アジアは非常に外食が多い文化です。私世界中旅行にあちこち行っていたので、日本のお母さんの追いつめられかたを見て、日本の食育の考えがおかしいんだということに気がついたんです。ドイツは教育水準も高いですよね。でも台所で火を使わないですよ。ただ毎日チーズとパンを切るだけなんです。家でコロッケを揚げるとか、油仕事しないんですよ。(日本の食育は)ものすごく間違っていると私は思っていて、そこを叩き壊してやりたい。そうしたら子どもは怒られなくて済むし、私も怒らなくて済んだのに。もともと子どももいて仕事していたら、両手ふさがってるから家事なんかできないんですよ。自分で料理できるようになったのは、子どもが小学校高学年に上がってからです。子どもの手が空いたから。(後輩のお母さんに言いたいのは)食育なんて無理だからもう料理できないって言って、お惣菜にしようよ。じゃなかったら出前でいいから。とにかく腹が立ったらビール飲んで(子どもとお惣菜を)食べて寝る。次の朝起きたら全然たいしたことじゃないのね。旦那との関係も、いつでも離婚できると腹くくっていればたいがいのことは怒らないで済む。やっぱり暴力とか、怒りとか、どうしても弱い人の所に行っちゃうから。だから毎日引き算で。部屋がちらかるのは気にしない。

小林「毎日かあさん」の2012年6月の第654回の「思い出の夢」という回がありましたよね。2人のお子さんが小さい頃、「抱っこして」って甘えている夢。その中で西原さんは家事を優先させて、抱っこしてあげなかった。夢から覚めて「家事なんかしなきゃよかった、家なんてもっと汚くてよかった・・・あんなに抱っこして欲しがってたのに、もったいないことしちゃったなぁ」って、西原さんが後悔するというストーリーでした。

西原「抱っこ、抱っこ」と言ってくれるのは5歳くらいまでなんですよ。

小林だから引き算は家事から?

西原そう。

小林怠けるわけじゃなくて、やっぱりその時の優先順位ってあるわけですよね?

西原今の冷凍食品おいしいよ(笑)。

小林私もそうなんですが、お母さん達は頑張り過ぎているんでしょうか?

西原とにかく上を上を目ざす、教育でも何でも掃除でも洗濯でも頑張り過ぎだし、かといって旦那はしたくても仕事がきつくて家に帰ったら疲れている、それで喧嘩になる。子どもは、飯食ってるとき親が喧嘩していることが一番いや。

小林そうですね。

西原泣きながらご飯食べた思い出がいっぱいあるもん、怒られて。さっさと食えと言われて、終わって部屋に戻ったらこんどは部屋が汚いとか、どんどん親が追いかけて来るのね。もうそんなことのために生きているのはもうやめて。抱っこしたり子どもにチューしたりできるのは5歳までだし、それが終わったら触れないし。本当は大好きな人は毎日触りたいけど、たった5年ですよ。そして、はたち過ぎたら家を出て行っちゃう。家の中に誰もいなくなっちゃうし、そんな家で掃除していて、あんな大事な子どもをなんで怒っちゃったんだろうと。

仕事と育児の両立

お母さんって想像を絶するくらい寝不足だから、判断を間違える

小林西原さんは仕事と育児を両立させるために、工夫していたことはありますか?

西原アルコール依存症の夫が常に暴れているときにまず何を取るかと考えたら子どもと仕事で、夫はその次だと。つまり人生のプライオリティというか、優先順位を自分の中で決めました。そして思ったのが、お母さん達って、想像を絶するくらい寝不足なんですね。赤ちゃんを育てている時、ずーっと寝不足でしょう。それで小学校のときもまだ夜中に起きたり何か色んなことしたりして。だから、ものすごく判断力が皆さん鈍ってます。だから私らもよく同期のお母さんと「なんであのときビクビクしちゃって、子どものためだとか言われてPTAの総会に残っちゃったのかしら」とか話してました。町内会とかも、子どもが風邪で具合悪いのに出席したりして、優先順位がまるで分かってない。ちょっとでも声が大きくてギャーギャーいう人が言うことを、つい聞いちゃった。それで本当に大事な時間を取られちゃったというのがいまだに本当に悔しいです。だからお母さん、優先順位は子どもです。くだらない大人のことは全部無視してください。
 PTAは参加しなくていいです。無駄な互選会なんてやめてください。あんな無駄なことは無いです。無駄な仕事で2時間も3時間もかかっちゃうんですよ。私なんか、嘘の電話取って途中で帰ったりしました。皆さんも嘘をつけばいいと思うんですよ。親がガンだとか(笑)、嘘ってつきようなので、自分を守る為の嘘とかバックレ、それを大事にして頂きたいと思います。

小林会場の皆さんも働いていらっしゃると思いますが、その職場やパート先でも自分のことをまず優先するのは、なかなかできないことではないですか。

西原私達の先輩の女性たちが私たち後輩のために本当に頑張ってくれて、産休取ってくれたりとか、育休取ってくれたり。頑張ってくれたので、私たちも後輩のためにそういう交渉しないと。ここで遠慮したら後輩が困るという考え方で、女も40歳くらいになったら集団で上司に労使交渉に行くぞとか、大事な書類のメール送らないで囲い込んで嫌がらせするとか、それくらいできますよね。不倫メールさらして部長さんをストップ安にさせるとか(笑)。もう、そういうことでがんがん後輩たちのためにやる。男の人も子供の熱が出たら休める、会社が休める社会にする。そうしないと(女性が子どもを)産めないもの。私達のお母さんがちょうど姑いじめにあった最後の世代だと思うんですよ。聞くとみんな壮絶なことを言われている。でも今時の姑ってそんなことしないですよね。「私はやられたからあなたはそんな思いはしないで」とか。そういうふうに女の人って、橋渡し、バトン渡して、すごく良くしてくれる。私も子どもの世代のために何か一暴れしてやろうと思ってます。

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※本講演録は、日立グループの見解を表明するものではありません。

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