Tran Phuoc Duy
日本・東京科学大学 生命理工学院 助教
日立スカラーシップ種別:博士課程留学支援プログラム(2014年10月〜2017年9月、東京大学修士・博士課程)
私は計算生物物理学の研究に取り組んでおり、分子シミュレーションを用いて生体分子の動態や相互作用の解明を目指しています。特に、Parallel Cascade Selection Molecular Dynamics(PaCS-MD)とマルコフ状態モデルを組み合わせた高度なサンプリング技術を開発・応用し、タンパク質とリガンドの結合や解離経路、構造変化などの複雑なプロセスを解析しています。
最近の研究では、SARS-CoV-2のエンドリボヌクレアーゼの阻害メカニズムのモデル化や、アデノシンA2A受容体のGタンパク質結合時の構造変化の探索などを行っています。また、AIが生成した細胞浸透性ペプチドの優先順位付けと理解のために、機械学習手法も統合しています。これらの研究は、分子モデリングの進展と創薬への貢献を目指しています。
日立スカラーシップは、私のキャリアと人生に大きな影響を与えてくれました。博士課程では、この奨学金のおかげで先進的な計算生物物理学の手法を学び、分野の第一線で活躍する研究者たちとつながることができました。
技術的なスキルが向上しただけでなく、学術的な視野も広がりました。また、文部科学省・科研費による研究プロジェクトに参加することで、国際学会への参加や共同研究の機会にも恵まれました。これらの経験は、現在のグローバルなネットワークの基盤となり、日本、ベトナム、そしてその他の地域との強いつながりを築くうえで大きな助けとなりました。研究者として、また協働者としての道を歩むうえで、非常に重要な指針となっています。
留学中に最も印象に残っている経験のひとつは、日立国際奨学財団が主催する文化・交流イベントに参加したことです。これらのイベントは、日本の文化や産業を深く知る貴重な機会であり、他のスカラーズとの交流の場でもありました。
特に、山口県にある日立製作所笠戸事業所を訪れ、新幹線の技術革新について学んだ夏の研修旅行は鮮明に記憶に残っています。また、佐渡島や京都・奈良への旅行、特に東大寺の訪問は、私に深い感銘を与えました。これらの体験は、学問を超えて私の人生を豊かにし、文化的な理解と人間的な成長を促してくれました。
私が特に好きな日本の歌は、手嶌葵さんの「森の小さなレストラン」です。この曲は、静けさと不思議さを感じさせてくれ、聴くたびに京都・嵐山の竹林の静かな小道を歩いているような気持ちになります。高く伸びる竹と柔らかな光に包まれた風景が思い浮かび、心が穏やかになります。
背景音楽は、優しいメロディと自然音が調和しており、夢のような雰囲気を醸し出しています。この曲は、日本の静かな美しさを象徴するような存在であり、私にとって心の逃避先であり、自然の中で過ごした大切な思い出を音楽として映し出してくれるものです。
日立財団スカラーズの皆さんへ。
この旅で得たすべての瞬間を大切にしてください。学術的な成長だけでなく、刺激的な人々との出会い、日本の豊かな文化の体験、新たな視点の発見など、かけがえのない機会が詰まっています。
このプログラムを通じて築いた友情、文化的な経験、そして支援は、きっと一生の宝物になるはずです。私自身、この財団の支援に心から感謝しており、それが私の進む道を形作ってくれました。これからも共に学び、つながり、成長していきましょう。
2015年 日立スカラーシップ卒業式
2017年 日立スカラーシップ卒業式