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日立財団Webマガジン「みらい」2017創刊号
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講演録 3

認知症と共に生きる:
絶望を希望に変える地域の力

認知症介護研究・研修東京センター
研究部 部長

永田 久美子 氏

認知症と共により良く生きるライフスタイルについて考えてみましょう。

 私は認知症をテーマに研究と活動を始めてからちょうど40年近くなります。大学1年の頃に認知症の人との関わりが始まり、それから本当に長い期間をかけながら、どういう方法が良いのかを試行錯誤しながら今に至っています。課題は山積していますが、この40年間実はものすごく大きな変化が起きてきています。同時に、残念なことですが、40年前と同じような事態が繰り返されてもいます。本来であれば、もっと楽に、もっと良い状態で暮らせる時代になっているはずが、40年前と同じような苦労や困りごとで消耗しきっているような人たちが今でもいらっしゃいます。本日は治療や介護、地域での取組と一体になりながら、認知症と共により良く生きるライフスタイルとは何かについてお話しさせていただきたいと思います。特に若い方にとっては、高齢者の方を将来自分がどのようにケアしてあげていくのかといった問題は、まだまだ自分事として捉えるのは難しいと思いますが、高齢者というのは私たちと地続きの存在です。私自身も高齢にさしかかっていますし、若いみなさんたちも、いつかは必ず高齢者になります。そして高齢期になる前段階のまだ若い時期でも認知症になる可能性があるのです。実は認知症というのは高齢者だけがなる状態ではありません。脳の中で認知症の変化が起きてくると、若い方でも認知症になります。私が関わらせていただいた一番若い方では、29歳で発症された方がいます。今でも毎日30代、40代の認知症の方とも、いろいろご相談をしております。今日は映像をお持ちしております。その映像の中には、39歳で発症して、お子さんが今大学受験をしようという、そういう若い世代の認知症の方が登場します。この映像から、認知症の問題は今や傍観している時代ではなく、もし自分が認知症になったらとか、自分の親や身内、友だちが認知症になったらどうしたらいいのかという、そんな目線で一緒に考えていただければと思います。

認知症になったら終わりでは決してない。
認知症になっても今後の人生の活路は拓けます。

 認知症の人はやはり増えています。2025年には、65歳以上の方々が全体の人口の20%を超えると推定されています。こうした中で、トラブルや医療介護上の問題、あるいは事故など、高齢者が増えてくることに伴う課題を直視する必要があると思います。ただ、課題のところだけを見ると、「年を取りたくない」とか「認知症になりたくない」とか、絶望だけが広がっていくかもしれません。認知症にならないことはもちろん大事ではありますが、認知症にならないことだけを考えていたのでは、なったらおしまいという発想になってしまいます。むしろ、これからどうやって認知症に備えながら暮らしていけば良いのか、自分自身また自分の身内の認知症に備えていくという考え方が必要だと思います。認知症になってからでは遅いのです。これは企業も含め、みなさんたちが住んでいるご近所の暮らしやすさのためにも、この課題山積の中で絶望だけに吸い込まれないで、今後どうやったら自分たちで道を拓いていけるのかを前向きに考えていく必要があります。
 認知症に関しては、認知症になったらもうお終いとか、認知症の人は事故を起こす、人に迷惑をかけるとか、介護が大変だとか、そうした問題点だけにスポットライトを当ててしまう傾向があります。認知症の人は社会のお荷物で、そういう人がいると面倒だから早く自分たちの地域からどこかに行って欲しいという、地域から排除するような声も少し強まっている状況かと思います。そして、病院に預ければ済むとか、介護の施設に入れてしまえば何とかなるとか、あるいは犯罪等が起こったら、警察に任せますとか、誰かがどこかで何とかしてくれるだろうという、そうした人任せの考え方が今までの主流であったと思います。私も認知症関連の会議には数多く出ていますけれど、みんなが深刻なムードで眉間にしわを寄せて、解決策が見つからない中で悲観的になって、疲弊し、諦めになるというようなことがこれまで多くありました。しかし近年ではそうした傾向に変化が見られます。認知症になったからと言って決してお終いではないということです。認知症を発症し亡くなるまで平均15年、長い方では20年以上の長い人生があります。発症してからの人生をどう生きていくか、最近では認知症が発症してからでも「まだまだ行けるこれからの人生」という、そんなキャッチフレーズを掲げて、認知症になってからの人生をどう自分で生きるのか、方向性や方針もかなり出てきています。問題点だけを見ずに、どれだけ可能性を重視できるかということに変わってきています。認知症になってからも可能性があるという、その可能性に光を当てると認知症を発症してからの10年以上の暮らし方も全く違ってくるのです。社会から排除するよりも、認知症でも社会の一員であるという考え方に変わってきています。認知症になっても今後の人生への活路を開ける人はたくさんいらっしゃいます。

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公益財団法人 日立財団WEBマガジン「みらい」 http://www.hitachi-zaidan.org/mirai/01/index.html
※本講演録は、日立グループの見解を表明するものではありません。

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