犯罪における高齢者の「加害」と「被害」について。
私は犯罪における高齢者の「加害」と「被害」という問題を扱いたいと思います。私は犯罪学者として、犯罪学的な視点から高齢者の問題を見ているわけですが、犯罪というのは若者の行為であると犯罪学の長い歴史の中では議論されてきました。アメリカで生み出された犯罪学理論のほとんどは、少年期や青年期の行動を議論しており、高齢者は対象になっていませんでした。例えばイギリスにはどの年齢に犯罪を行うかという犯罪年齢曲線があり、それを見るとほとんどが40歳代で犯罪をやめるとなっています。ところが日本は全体的に40歳を過ぎても犯罪をやめないで、最後の最後まで犯罪を行うという人の比率が非常に高い。これは諸外国との大きな違いであると思います。高齢者が犯罪を行うには、体力、気力、精神力が必要です。例えば人を殺すという状況には、襲いながら相手も抵抗してきますので、抵抗を更に上回る力で、相手に対して攻撃をしないと殺人は遂行できないということです。なので、まず犯罪行為を行うのには相当な体力や気力が必要であるということです。更に逃走することも初めから計画性のある人は考えていますので、逃げるにも体力、気力が要ります。しかしながら、近年高齢者は犯罪を行わないという犯罪学のこれまでの定説を覆すような事件が日本でいくつか起こっています。
60歳を過ぎた晩年に初めて犯罪に手を染める人が多い。
栃木県で最近起こった事件ですが、72歳の元自衛官が宇都宮市内3カ所に爆弾を仕掛けたという事件がありました。元自衛官ですから、技術があり時限爆弾を作れる能力があったからかもしれませんが、時限爆弾を仕掛けるというような計画は、通常70歳を過ぎた高齢者には難しい作業だと思います。この方はいろいろ問題を抱えていたので、止むに止まれぬ状況だったのでしょう。娘さんが病気で、奥さんとは離婚訴訟が進んでいて、財産を差し押さえられていたということから、この方もその後焼身自殺を図ってしまうという高齢者による非常に悲惨な事件でした。高齢者の事件というのは、このような社会的状況で発生していることで多いので、若者の行動とは異なった見方が必要です。

高齢犯罪者の現状として、65歳以上の検挙人員数は、他の年齢は平成14年をピークにぐっと下がってきているのに比較して、高齢者だけは上昇か横這い状態が続いているというところが、注目すべき点です。そして、われわれ専門家が見ても意外なことですが、初犯者が多いのがわが国の高齢者の犯罪の特徴です。実は検挙された高齢者のうち、初犯者が65%を占め、高齢になって初めて犯罪に手を染めた人が多いことが分かります。少年期から不良で、非行を重ね暴力団に入って、刑務所や少年院の施設を転々としているうちに高齢になってしまったというよりは、それまでは比較的真面目な人生を送ってきた人が、60歳を過ぎた晩年に初めて犯罪に手を染めるというのが大きな特徴だといえます。
最近では高齢者のストーカーも増えてきています。そうした高齢のストーカーは、かつて社会的地位が比較的高い人たちが多いようです。退職後は、以前にいた会社の地位はもう通用しなくなり、肩書のない普通の人に変わる訳ですが、そういう人はプライドが高く、自分が拒絶されるはずがないと思っているので、少し優しくされると勘違いをして、自分はこの人に愛情を持たれていると思い込んで話をしていくと、実はそうではなかったことが分かる。しかし、かつてはあれだけの社会的地位があった自分が嫌われるはずがないと、それでストーカーに転じてしまう。そういう高齢者ストーカーは、今後もっと増えてくるだろうと予想されます。