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日立財団Webマガジン「みらい」2017創刊号
シンポジウム講演録
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講演録 2

高齢者の犯罪における加害と被害

シンポジウム・コーディネーター
日立財団Webマガジン「みらい」編集主幹
拓殖大学政経学部
教授(犯罪学・刑事法専攻)

守山 正 氏

介護老人ホーム化する刑務所。

 さらに問題なのは、高齢受刑者です。刑務所に送られてきた高齢受刑者が増えて、刑務所が介護老人ホームとほとんど変わらないという状況にあると言われています。刑務官というのは、ご存知のように刑務所で働く国家公務員ですが、現在では高齢受刑者の紙おむつを取り替えたり、車椅子を押したり、入浴させるとか、ほとんど介護士と変わらない任務を負うようになり、最近では刑務官になりたい人の意欲が非常に低下しているようです。このことを踏まえ、法務省が最近、刑務官の負担を軽くするために介護士の方を刑務所に入れたのですが、今後この分野における人材不足が課題になってくるのではないかと言われています。

受刑者の高齢比が高まっている

 高齢の受刑者には6回以上も刑務所を出たり入ったりしている人が目立ちます。高齢受刑者の中には、刑務所の方が楽だと思っている人が結構いるようです。3度の食事つきで、お風呂には週2回か3回は入れますし、医療費は全て無料です。介護もやってくれるとなれば、刑務所から出たらサポートをしてくれる人が誰もいない場合、刑務所の方が仲間もいるし楽しいということになります。これでは刑罰が抑止力になりません。高齢者の犯罪を防ぐにはどうしたらいいかについては、もはや福祉の問題であって、刑罰の問題と言えない状況にあると思います。
   下関駅放火事件は74歳の男性が山口県のJR下関駅に放火をしたという事件ですが、この方は刑務所から出てすぐに、北九州市に生活保護の申請をしようとしたら、住所が定まっていないため生活保護を受けることができず、絶望し、刑務所に戻るために下関駅に放火してしまったということです。駅を修復するのにかかった費用が12億円とも20億円とも言われています。その莫大な費用を考えると、生活保護費の方が相当安く済んだのではないでしょうか。ところが最近ではこのように刑務所に入るために犯罪をする人がかなり目立ってきています。将来的にはいろいろなセーフティネット、見守り活動のようなものを福祉の領域でやらないと、刑罰を科しても犯罪は防げないし、このような社会的コストをわれわれは支払わなくてはならなくなります。法務省によると、刑務所で1年間1人の受刑者を収容するのに310万円~320万円ぐらいかかるそうですが、やはり生活保護費より高くなります。従って、刑務所に1年間入れてそれくらいの税金が使われるのであれば、そのお金を福祉に回せば、約2人のサポートができる訳です。また、年間で50数億円の医療費が刑務所の中で使われています。高齢者はほとんど何らかの病気を持っているので、毎朝配布される薬の費用がかかり、多くの税金を消費している訳です。そのようなことから、最近ようやく厚生労働省の地域生活定着支援センターが法務省と提携して生活保護の手続きをサポートし、一時的にホームに収容することができるようになりました。このような福祉の取り組みは、今後高齢受刑者の数を減らすことに貢献できるのではないかと思います。そもそも、犯罪をしなければ社会が被害を受けることもありません。

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公益財団法人 日立財団WEBマガジン「みらい」 http://www.hitachi-zaidan.org/mirai/01/index.html
※本講演録は、日立グループの見解を表明するものではありません。

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