講演録 2
非行と貧困
─ 格差社会における社会的排除 ─
拓殖大学政経学部
教授(犯罪学・刑事法専攻) 守山 正 氏
非行少年に、セカンドチャンスを。

日本でも、セカンドチャンスという運動が行われております。これは、もう一度、非行少年にチャンスを与えるべきだという考えです。1回目の非行は、ひょっとしたら、家庭的な環境が影響してのことかもしれないので、もう一度チャンスをあげたらどうか、ということです。非行少年や、非行をなくすにはどうしたらいいかということは、他の先生も仰っていたり、先ほど私も話しましたけれども、社会政策や社会福祉の問題なんですね。
生活保護は世間一般には評判が悪いんですけれども、実は生活保護の充実で成人犯罪がかなり減ったんですね。だから、生活保護は適切に配分すると犯罪抑制という観点からは有効だと思います。幼児教育はメリハリを付けて無償化にすれば、非行抑制に役立つかもしれないということです。
それから、居場所づくりですね。子どもたちは、家庭から追い出されたり、学校から追い出されると行くところがないわけです。アメリカで「KOBAN」という取り組みがあり、これは日本の交番制度を元にしたシステムなのですが、私がサウスカロライナで見た実際のKOBAN活動は日本のものとはぜんぜん違っていましたね。あちらでは、貧困地帯の中に市役所が居場所を作っていました。そこに市役所の職員が常駐していまして、学校を終わって家に帰ってもまだ親が帰ってきていないような子どもは、まず、このKOBANで過ごすわけです。学童保育のような施設です。子どもたちが勉強したり、家庭教師から勉強を教わったり、ゲーム機も置いてあったりして、そこで思い思いに過ごして、夜になって親が迎えに来る。そんな施設でした。
このような子育て支援の試みについては、イギリスなどでも非常に活発に行われております。こういう施策は防犯や健康などさまざまな要素が絡み合い、単一の機関だけで行うのは限界があります。だから例えば、日本でも法務省と警察庁、さらには厚労省がお互いに協力して対応しましょう、という気運を盛り上げるべきです。各自治体も含めて官庁が共同で連携して子育て支援や福祉、非行の予防といった、複数の視点で共同していくと、かなりの成果を上げることができるはずです。

拓殖大学政経学部教授。犯罪学・刑事法専攻。イギリス犯罪学が専門。早稲田大学大学院法学研究科博士課程修了後、ブリティッシュ・カウンシル給費派遣、ケンブリッジ大学犯罪学研究所、国連ローマ犯罪司法研究所(UNICRI)の各研究員を歴任。イギリス・ハワードジャーナル国際編集委員。著書に『犯罪学への招待』、『イギリス犯罪学研究Ⅰ/Ⅱ』など。近年は子どもの安全、地域の安全、犯罪予測問題にも取り組む。