講演録 4 貧困の連鎖と教育支援
勉強が分かるようになるだけでなく、非認知能力も身につきます。


学習支援の成果について。まず、学力が本当に上がっていきます。もうひとつ、先ほど中室先生が「非認知能力」と仰っていたソーシャルスキルの獲得ができます。ここがすごく大きいと思っています。学習会に来ることで、ボランティアやスタッフと楽しくコミュニケーションを取ることができるので、そういった能力が上がります。あと、毎回遅刻しないで来られるようになったり。学習会なのに勉強道具を一切持って来なかった子どもも、きちんと教えると持って来るようになるとか。
あと、私たちが励まし続ける中で、努力できるようになります。英単語10個の小テストで最初は0点でも、頑張って少し点が取れるようになる。「頑張ったらできるじゃない!」と励ますと、もっと頑張るようになって、最終的に100点取ったり。これまで家庭や学校ではやってもらえない環境を学習会では提供できていると思っています。
もうひとつ、学習会には大学生だけでなくいろんな職業の社会人のかたにも参加していただいているので、その人たちを通して大人が働く姿を見られるようになります。子どもたちはそれまで、パートで働き続けている疲れたお母さんとか、なかなか働かないお父さんが家でお酒を飲んだりするのしか見てないわけですよ。だから働くことに対しても大変そう、イヤだな、といったイメージしかわかない。でも、学習会で社会人のかたが例えば出張に行ってきたからと言っておみやげを持ってきてくれます。子どもたちは「仕事で旅行に行けるんだ」って思います。家にお金がなくて夏休みにも旅行に行かれないような子どもたちなので、これは大きな発見です。このことが「仕事って何だか楽しそうだな」と、働くことやそのために勉強することのきっかけになったりします。そういう副次的な効果がすごく大きいですね。

キッズドアの活動についてお話しさせていただきます。今、東京と仙台、宮城県南三陸町で活動を行っています。2016年の実績で学習会は50か所程度、2017年は60か所以上に増えています。
学習会は実施回数がだいぶ増えて来ましたが、それでもまだ足りない状況です。ご紹介した資料で、子どもたちは280万人ぐらい貧困に苦しんでいるというデータもありましたが、そういう中で、まだまだ足りていないので増やしていきたいと思っています。

高校受験の学習会の様子です。受験は子どもたちに受かってもらわないといけないので、出題されそうなところを集中的に先生が教えています。写真で、小さい人が中学3年生、横の大きめの人がみんな大学生のボランティアです。子どもたちは非常に学力が弱いので、授業を聞いているだけではとても追いつきません。授業を聞きながら、分からないところをその場で教えたりしています。そのほかの学習会も同様です。子どもたちの横に寄り添って、いろんな話をしながら勉強を進めています。

体験活動も行っています。以前、私たちが見ているお子さんが「動物園に行きたい」と言いました。「動物好きなの?知らなかったよ」「何が好きなの?」と聞いたら、「行ったことがないから分からないよ」と返事されて、動物園に行ったことのない子どもがいることに気づいたのです。どこにもなかなか行かれないような環境の子どもたちなので、体験活動としていろいろな体験も提供しています。

親御さんからの声をご紹介します。本当に、子どもも親もすごく明るくなりますし、このほかにもいろいろな活動をしているので、もしご興味があれば、お問い合わせください。
子どもたち、実はすごく才能に溢れています。私たちの支援した子どもで、行政が行っている留学試験に受かって今アメリカの高校に1年間留学に行っている子もいます。子どもたちはどの子どもも本当に才能に溢れています。社会で子どもたちを支援し育てていくことが非常に重要です。ぜひ、みなさまもこういうことを心に留めていただければと思います。
特定非営利活動法人キッズドア(NPO Kids' Door)
「すべての子どもが夢と希望をもてる社会へ」をテーマに、渡辺由美子氏が2007年設立。経済的に苦しい家庭や1人親家庭、児童養護施設や被災地で暮らす子どもたちなど、困難な状態にいる子どもを対象に様々な支援活動を展開。高校受験サポートの「タダゼミ」、高校中退予防や大学進学サポートの「ガチゼミ」、児童養護施設向け学習支援といった教科学習支援のほか、キャリア教育支援、体験学習支援、東北復興支援事業も行っている。
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千葉大学工学部出身。大手百貨店、出版社を経て、フリーランスのマーケティングプランナーとして活躍。配偶者の転勤に伴い一年間イギリスに移住し、「社会全体で子どもを育てる」ことを体験する。2007年任意団体キッズドアを立ち上げ、2009年特定非営利活動法人キッズドアを設立。日本の全ての子どもが夢と希望を持てる社会を目指し、活動を広げている。現在は東京を中心に、仙台、南三陸町でも活動を行い、2016 年度は50の無料学習教室や居場所を運営し、1500名以上の子どもを支援した。内閣府 子供の貧困対策に関する有識者会議 構成員、厚生労働省 生活困窮者自立支援及び生活保護部会 委員、専修大学 非常勤講師。